「思い出のマーニー」(ロビンソン)

少女アンナが自分のルーツを辿る物語

「思い出のマーニー」
(ロビンソン/高見浩訳)新潮文庫

心を閉ざす少女アンナ。
親代わりの
プレストン夫妻の計らいで、
自然豊かなノーフォークで
夏を過ごすことになった彼女は、
そこで不思議な少女
マーニーと出会う。
初めて親友を得た
アンナだったが、
マーニーは姿を消してしまう…。

予備知識も先入観もなしで
読み始めたら、
最初わけが分からなくなり
困惑しました。
アンナは自閉症?心の病?不良少女?
ははあ、さてはひねくれ者アンナが
友達マーニーに出会って
心を開いていくという、
よくある友情物語だろう。
ところがマーニー登場から
次第に謎が膨らんできます。
えっ、これってホラー小説だったの?
マーニーってゴースト?
夏の夜に読みましたので、
なおさら背筋が寒くなりました。
でも、後半を読んですっきりしました。
こういうことだったのか。
読み終えてもワクワク感が
しばらく継続しました。

本作は主人公アンナが、
自分でも意識せぬうちに
自分のルーツにたどりつき、
自分を大きく成長させていく
物語なのです。
アンナは幼い頃両親に死に別れ、
彼女を引き取った祖母もまた
すぐ亡くなり、
プレストン夫妻に引き取られています。
「自分が何者なのか分からない不安」、
それが彼女を周囲との交流から
妨げていたのでしょう。

物語終末で、パズルのピースが
一つ一つ合致していくかのように、
マーニーをめぐる過去と
アンナの現在が繋がっていきます。
人間は決して一人ではないのです。
一人一人が深い愛情に包まれて
存在しているのです。
そんな当たり前のことを、
改めて気付かせてくれます。

児童文学の主人公の少女は、
得てして特異なキャラクター
(現実離れしたポジティブさ等)で
あることが多いと思います。
「赤毛のアン」しかり、
「不思議の国のアリス」しかり。
でも、本作品の主人公アンナは
現実世界のどこにでもいそうな、
控えめでおとなしい少女です。
舞台や時代設定が違えども、
私たち日本人が読んでも
十分に感情移入できる
内容だと思います。

これこそ本を読む楽しみを
味わえる一冊です。
ぜひ中学生に読んで欲しいと思います。
できればジブリ映画を観る前に。

※本作は言わずと知れた、
 ジブリアニメで
 一躍有名になった作品です
 (私は観ていないのですが)。
 それまでは岩波少年文庫からしか
 出ていなかったのですが、
 映画化により、
 角川文庫、新潮文庫から
 一気に出版されました。

※映画化される30年以上も前に、
 本作品を出版している
 岩波少年文庫の見識の高さ!
 やはり岩波書店は
 日本の良心といえる出版社です。

(2020.8.12)

stuartpatterson280によるPixabayからの画像

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